第87回

第87回MURオープンゼミナール

火災リスクを考慮した性能設計

■火災リスクを考慮した性能設計

今日の課題

火災シナリオ、評価ツール、評価基準、性能維持状況の評価・報告制度と資格、建物利用者へのリスクコミュニケーションなど

建築基準法―性能目的の明示

→誰もがわかる

施工令―性能水準と設計条件

→工学的表現

告示―評価方法など

→具体的な方法明示

●情報―対話(Communication)、通知(Information)

→法律は不十分なのでは、とくに、防火は大学では教えていないので設計者一級建築士でもわからない、目的など顧客に説明できない。

■人格と安全の範囲・対象

0.

●法律である建築基準法は国民にとってわかりやすい言葉で、言葉や機能要求が明示されているか。

●防火技術者の職能・資格認定制度など火災安全確保のための運用段階を想定・考慮した法体系・設計体系であるべきである。

●火災被害を効果的にコントロールできるのは一般国民のはずである。彼らの果たすべき責任範囲と設計・施工段階で果たすべき事柄を明示する必要がある。

●リスクコミュニケーションの重要さの認識

1.火災シナリオについてコンセンサスがない

仕様書的設計及び性能設計の出発点として、建築基準法では、「通常の火災」とある。

●通常の火災とは何か

→通常の空間の使われ方に立脚した火災危険を考えるべき

●大地震後の火災や戦火・テロ、放火を除くという意味なのか

→地震国日本おいて地震を考えないのは不自然

放火をどう考慮するか

●なぜ実際の火災に目を向けないのか

→消防庁の火災統計を建築火災安全に役立たせる情報源となるように変える努力をしないのか

2.評価ツールの適用限界が明確でない

建築の形態・使用材料・工法や空間利用形態、利用者の行動特性などは急速に変化している。火災安全の視点から制約すべきではない。

→ルートCをもっとおおらかに受け入れる仕組み、法第38条大臣特認の復活が必要である。

3.評価基準に関してもっと真摯な検討が必要である。

過去に基準との連続性から同等性という立場で法を構成する気持ちはわかるが、本来は、

「ルートA>ルートB>ルートC」

の順でインセンティブがあるものとすべきである。努力を評価する仕組みと責任が明確でない。

※(ルートC)告示に定められた方法ではなく、高度な専門的な知識により性能を確かめる方法

※(ルートA)居室の各部分から階段までの歩行距離の上限や排煙設備の設置など、避難安全を確保するための様々な方策を仕様書的に基準として定めたもの。

※(ルートB)平成12年建設省告示第1440号、第1441号、第1442号に具体的に規定された避難安全性能を確かめる方法(避難安全検証法)。検証方法が明文化されている。

4.建物ライフサイクルの性能維持状態を評価する尺度や方法が確立されていない。

(リスクコミュニケーションツール)

●建築設計における火災リスクコミュニケーションの現状

・ 「法を遵守するためにこの対策が必要である」との一点張りの説明に終始

・ 設計者地震仮名ゼンその対策が必要であるか説明できない(教育の場がない)

・ 設計者やユーザーの理解を助ける説明ツールがない。(専門用語に終始している)

・ 通達行政の廃止により、防災計画書の作成の義務がなくなった。

●火災安全性能表示に関するアンケート

・ 住宅購入時に考慮する性能の優先順位

安全に対する優先順位はそれほど高くない

・ 火災安全性能の表示文章タイプ評価

法律遵守(合格)などがわかりやすい。

●住宅初期火災拡大リスク表示法

・ 住宅居住者

・ 局所火災で終わらせるには可燃物の管理をどうすべきかを理解してもらう

・ 居室内の可燃物実態を調査、モデル配置

・ 火災統計分析より重要火災原因と着火物の組み合わせを抽出

・ 実験により設計用火源を提案

・ 着火限界範囲の図で安全・危険を表示

●火災リスク(FR)指数による表示

・ 対象:投資家・保険業・建物管理業・建物所有者

・ ソフト・ハード火災安全対策の実態を数値化

同一用途・構造の平均的な建物との比較

企業者としての数値目標の明確化

火災統計との連動により損害期待値や休業日数評価が出来る。

5.誰が「設計性能が維持されているか」確認するのか

火災安全を達成するには利用者の自覚が最大。

防火技術者が活躍する場である。

●NPO日本防火技術者協会設立と活動

・ 防火技術者の技術と倫理向上を通じて防火技術者の社会的認知を推進する。

・ 「市民の視点での火災安全、市民と協働による火災安全とは」を考える。

●新しいタイプの防災計画書作成の必要性

・ 性能設計の導入により建物の火災安全設計は新しい局面に入った。

・ 建物の維持管理・点検報告の強化とインセンティブをどのように与えるか

・ 火災安全達成に市民の積極的参加を前提とした防災計画書:誰でもわかる言葉で記載

■まとめ

・ 21世紀の安全・安心問題の解決にはすべての関連する人々の活発なコミュニケーションが必要。バランスを高めることも必要。

・ ユーザーにわかる、ユーザーの目線での表現が必要。

・ 法制度や研究面の変化を期待。

■質疑応答

Q:防災計画書において設計者間のコミュニケーションはユーザーに対してどうあるべきか。

A:使用段階で、ソフト、ハードがどんな状態であるか。今は「今後の安全についてどう担保すべきか」に触れられていない。

また、使用段階の状態を書いていく冊子のようなもの、報告書をつくるなど。

Q:火災シナリオの考え方:設計している人はどんなイメージで火災を捉えているのか、頭の中だけで考えている印象なのですが。

A:設計者は火災について教育の場がなかった。法律を守るだけになっている。新しい空間をつくるとき法律を勉強して、初めて火災について知る。火災のイメージは映像でしか伝わらない。

連絡先:神戸大学北後研究室

TEL 078-803-6440

MURオープンゼミナールは、広く社会に研究室の活動を公開することを企図して、毎月1回、原則として第1土曜日に開催しているものです。研究室のメンバーが出席するとともに、卒業生、自治体の都市・建築・消防関係の職員、コンサルタントのスタッフ、都市や建築の安全に関心のある市民等が参加されています。興味と時間のある方は遠慮なくご参加下さい。