第84回
第84回MURオープンゼミナール
戦略的性能設計のすすめ ~考える避難安全設計~
■仕様規定による一般設計
●設計者からみた建築基準法の避難安全規定
○建築基準法の避難安全にかかわる仕様規定
⇒幅・距離・面積をあわせる設計
例:・1500㎡ごとに防火区画すること(面積区画)
・各部分から階段までは50m以内とすること。(歩行距離)
・重複距離は歩行距離に半分(25m)いないとすること
・物販店舗の階段幅は100㎡につき60cm以上とすること
⇒多くの設計者の認識は、
規定を守ること=防災計画
●主な火災事例と法改正の関係性
○大きな火災の後に法規制が行われている
○防火区画(1950)←白木屋(東京)、1932
○竪穴区画(1969)←金井ビル(川崎)、1966
●仕様規定による設計
○仕様規定の設計も次のように考えてみる
⇒規定を生かせる避難計画となるよう考えながら計画する
・うまく考えてある設計
→スムーズな避難安全設計
・あまり考えられていなかった設計
→のちのち安全確保のために追加計画などありえる
<特に、2方向避難と避難経路の安全性>
→ ・階段の位置
・重複距離
・避難経路の融通性
●基本計画から避難安全性を予測する
○片コアの場合
→2階段が廊下で連絡されているので、階段への経路を選択しやすい
→2階段の位置が近づきすぎると、重複距離が長くなるので注意
階段の位置は、のちのちの変更が難しく、安全に大きく影響する
〔避難経路や排煙設備、防火区画などは、後で決めることは可能だが〕
○ダブルコアの場合
→2方向避難がとりやすい。
→階段への扉が1箇所の場合、一方の階段が使えなくなると、他方の階段へ避難者が集中するため、両階段が使えるように工夫が必要
→避難階において、階段から直接、屋外階段避難しやすい配置である
・レンタブル比をあげようとすると、コアが小さくなりがちになる
○センターコアの場合
→2階段が近いので、重複距離が長くなりやすい
→角の居室では複数の出口を取るのが困難になるので注意が必要である
→階段配置が建物中心となり、避難階で階段から直接屋外に避難する計画が困難となるため、屋外までの経路の安全について考慮しておく
・レンタブル比はあがる
・半分ずつ使用することも多い
○鉄アレイ型コアの場合
→重複距離が長くなり、理想的な2方向避難は取りにくい
・各区画内に避難階段を設けておくのが理想的
■性能設計の中の戦略的設計
●性能規定とは
寸法の規定(仕様規定)から、時間の規定へ(20分間燃えないなど)
⇒認定試験
・不燃材料…20分燃えないなど
・特定防火設備…加熱面以外の面に火炎を20分間出さないこと
⇒性能検証
・大規模店舗の避難階段幅…煙降下以前に避難完了していること
・機械排煙量…煙降下以前に避難完了していること
●性能設計採用の要素
・合理的な安全対策
・自由なデザイン
・コスト削減
●性能設計のステップ
目標 ①除外規定の確認…蓄煙
ストラテジー(戦略)の構築
②安全性能を考える…煙効果を遅らせる
③状況予測と課題整理…避難者が煙の巻かれないようにする
④安全対策の構築…除煙口の設置、煙制御システム
検証 ⑤検証による安全確認…シミュレーション
■事例の中の性能設計
大阪ドーム、関西国際空港旅客ターミナルビル…機械排煙が効かない空間、蓄煙
愛媛県歴史博物館、和歌山ビッグホエール―内装に杉を使用…燃焼実験、炭化のしやすさ、横方向の広がらない
■現行の避難安全検証
●特徴(1)
避難安全 性能評価、耐火性能 性能評価
…数値で難しい、数値で表現できるものが先行した。総合的判断は消えてしまったのか
●特徴(2)
目標と検証の重視
■性能設計の現状と今後への期待
現行システムで危惧される点
・仕様規定と性能規定の関係が曖昧になっている
・安全のためにストラテジーよりも、成立させるためのノウハウに重きが置かれている
・安全達成のための知的共同作業から、検証そのものが目的のマンパワー作業となっている
より良い性能設計のために ・コンセプトを重視した総合的評価の仕組みづくりが望まれる
・設計者・防災設計者は、検証結果を追い求めるのみでなく、常に意識することが望まれる
連絡先:神戸大学北後研究室
TEL 078-803-6440
MURオープンゼミナールは、広く社会に研究室の活動を公開することを企図して、毎月1回、原則として第1土曜日に開催しているものです。研究室のメンバーが出席するとともに、卒業生、自治体の都市・建築・消防関係の職員、コンサルタントのスタッフ、都市や建築の安全に関心のある市民等が参加されています。興味と時間のある方は遠慮なくご参加下さい。
Last Updated 10/05/2019 13:48:08