第69回
第69回MURオープンゼミナール
2001年インドグ ジャラート州カッチ地震後の住宅再建・復興計画
当研究室 修士課程1年 藤 井 貴 弘
研究室では、2003年12月に、地震後約3年を経過した被災地の都市ブージを訪問し、都市部における住宅再建・都市復興の現状を調査したので、その結果を報告した。
2003年イラン・バム地震後の住宅再建・都市復興計画の状況について
神戸大学都市安全研究センター
北 後 明 彦
神戸大学調査団は、2004年1月25日~2月1日、被災地のバムは1月27日~29日、その他はテヘランにて被災の実態とその背景、住宅再建や都市復興の動きについて調査を行った。以下は、そのうち、住宅再建・都市復興関係についての調査結果である。
訪問先
イラン政府 住宅・都市開発省 都市開発・建築物委員会事務局長
Daneshian氏
Armanshahr社(建築・都市デザインコンサル、住宅・都市開発省から受託中)社長
Dr.Mostafa Behzadfar
建築・住宅研究センター(BHRC、住宅・都市開発省)理事長
Dr.Ghassem Heidarinejad
イラン自然災害研究所(住宅財団付属)所長
Dr.S.M.Fatemi Aghda
国際地震工学研究所(IIEES)理事長
Dr.M.Ghafory-Ashtiany
ケルマン県副知事(現地災害対策本部責任者)(バム)
Akbar Alavi氏
国連被災地活動調整センター 責任者、副責任者(バム)
赤新月社 現地責任者(バム)
(以下の、かっこ内の組織は、上記の担当者からの聴取であることを示している。)
■住宅再建・都市復興の段階計画
(タイム・スケジュール)(住宅・都市開発省)
・ 緊急生活時 テント
地震後、2~3ヶ月まで(2月下旬) それ以後 強風・高温
この間に、仮設住宅建設を完了させる。
また、この間に、復興都市計画の策定する。
・ 応急生活時 仮設住宅
地震後、最大2年までの生活 最大36㎡
この間に、都市復旧、恒久住宅の建設をすすめる。
都市復旧、再建費用 15億ドル(約1500億円)
・ 都市復興・恒久住宅の完成
地震22ヶ月後(2005年10月)を目標としている。
マンジール地震では、2年を要した。それよりも対象地域数が少ないので。
■仮設住宅・復興都市計画について
・ バム市内以外の周辺地域では、住宅再建を直接行う予定で、仮設住宅の設置は考えられていない。(コンサル)
・ バム市内では、2万戸分の仮設住宅を建設している。(住宅財団)
・ Save the ChildrenやWorld RelieveなどのNGO は、仮設住宅の建設活動に参加している。(国連)
・ 市内では、復興のための都市計画をすることになっている。この都市計画は、現在、最も議論の対象となっている。(国連)
■仮設住宅 (コンサル)
・ 仮設住宅団地
これまで住宅が建っていた場所の近くの空地を選定している。バム市の南端に多い。
鉄骨フレーム 発泡スチロール断熱材入りパネル などの構造。各住戸の規模は、12㎡~36㎡。
・ 希望すれば自分の敷地の中に建設可能
その場合、議会の承認が必要である。
背景 バム市内の各個人所有の敷地の面積は、250~600㎡であり、かなり広い。
・ 農村部では、直接、恒久住宅を再建
その際、恒久住宅の一部分から再建をすすめている。(一部分は、仮設住宅に相当すると見なされる。)
■復興都市計画の基本方針(住宅・都市開発省)
・ 観光都市としての繁栄
現在9万人を、今後の目標設定として15万人とする 。
市域の南側への拡大(鉄道駅方向)を計画している。
・ 庭園(農耕)地帯としての繁栄
2000年の歴史のある地下用水施設であるカナートを活用する。
近年は、自動車産業も、地下用水を利用している。(コンサル)
■復興都市計画の策定(コンサル、住宅都市開発省)
・ 復興計画は、2~3ヶ月間で策定する
その間は、建築制限を行う
・ マスタープラン (通常は策定に2年間かかる)
約3週間で作成の予定で、委託を受けたコンサルが作業中である。
なるべく現在の敷地、道路を変えない。道路網の連結性、階層性だけ改善する。
10年先を考えて計画する。3ヶ月前にほぼ策定していた。
・ 地区別の詳細計画 ( MAP )
マスタープラン策定後、作成する予定である。
・ ガイドライン (都市施設、建築物) の作成
・ 計画策定への住民参加は重要と思っている(住宅・都市開発省)
なるべく人々の土地を変えないようにする。
詳細計画に人々の意見を聞きながらすすめるのは、イランで今回はじめての経験である。
・ その後、建設活動を開始し、市民に政府からの財政援助など行う。
■都市を移転することを検討したか(BHRC、コンサル)
地震の直後に、政府の一部の人がテレビのインタビューで、移転すると答えたが・・・
・ 地下用水が、イランの都市にとってかなめ(コンサル)
バムはカナート(地下用水)に属す。したがって移転できない。
・ 1962年ガズビンボインザハラ地震後の再建の悪い例を教訓としている。(コンサル)
当時、ガズビンでは、ヨーロッパの各国政府からの援助で移転地に再建した。
そこでは、立派な建物ができたが、人々は移転を拒否した。
バムでも人々は自分の敷地で再建したがっている。テントも自分の敷地の中や近くの道路に建てている。
・ BHRC ( 建築・住宅研究センター ) による地盤調査(BHRC)
建築物にとって、バム市内の地盤はそれほど悪くない。
地盤条件で必要であれば、建物を強くすることを考えている。
アドベは禁止となっている。(建築基準法上の措置が、以前からとられている。)
■住民参加の具体化をどうはかるか(コンサル)
・ 住民の住宅再建についての意向を調査する
住民は、同じ場所に再建したいと考えている。
(神戸大実施のアンケートでも31人中30人が同じ場所、残りの1人はバム市内での再建を希望)
・ 政府は、財政的な援助を試み、また、技術的な情報を示し、敷地所有者に、自分で住宅を再建するように要請する
住民が、自分で再建することは、参加の一つである。
・ 政府は、選挙で選出された9人のメンバーで構成される市の議会に、どのような援助が必要か聞く
段階毎に、MAPを見せて、人々に問いかける。
議会(人々の代表)から意見、必要に応じて変更する。
・ 教育
住民と技術者、政府の間の対話を行うことは、参加の一つの形態である。
■震災復興に携わる主な政府機関(コンサル)
・ 住宅の再建
イラン住宅財団
・ 都市復興の計画・都市施設の建設
住宅・都市開発省
・ 全体調整 すべての面での復興・防災体制
内務省・自治体
・ その他
軍、教育省、高等教育省、歴史遺産関係
■イラン住宅財団(住宅財団)
・ 通常時、農村地域が担当エリア
・ イラン・イラク戦争(1980-1988)による戦災復興時の住宅再建に貢献した。
・ マンジール地震(死者4万1千人、1990年)時の住宅再建に成功(広範な農村地域)
・ 今回、バムの都市域を含めて住宅再建について、すべての地域を担当することとなった。
■再建される住宅の特徴(BHIC、住宅財団)
・ 4ヶ月前から、農村部でも、既存の危険な建物について、どのようにしていくか検討する国の委員会が始まっていた。
・ 2ヶ月前(2003年11月、地震前)には、市街地だけでなく、農村部でも、建築基準が適用されることになっていた。
・ 従って、今回の再建の際、どの被災地域についても、アドベは禁止で、スチールフレームの組積造、鉄骨造、RC造で再建することとなる。(市街地では以前から禁止)
・ なお、今回の地震でも、断層近くにあったスチールフレームの組積造は、大丈夫だった。
・ 今後は、スチールフレームを中心として、壁を軽くすることを計画している。
(ただし、断熱性に問題があるかもしれない。イランの人は、この点について特にはコメントなし。)
■再建住宅の財政援助と品質確保(住宅財団、住宅・都市開発省)
・ イランでの災害後の住宅再建の基本(これまでの経験、今回は検討中)
土地、材料、財源、設計図などを政府(住宅財団)が提供する。
住宅の再建は各個人が行う。
バムでは、独自の文化を守るため、特別な設計図が準備されることになることが考えられる。
なお、2階建てを可とするかどうか、検討中。2ヶ月後には検討終了。
・ 財政援助の範囲(これまでの例、今回、これを適用するかは検討中)
農村部 40~60㎡ 都市部 100㎡まで
1年前の地震時の例では、2割が助成金、8割が15年ローン
ローンの利率は3~4%(通常の利率は20~30%)
その他、家具、家電製品、じゅうたん、鏡を無償提供(今回、未定)
・ 品質確保などのため3回に分けて助成(これまでの例、今回、これを適用するかは検討中)
基礎→検査→助成、フレーム→検査→助成、屋根→検査→助成
(検査は、土木技術者協会の資格会員が行う。)
この考え方は、戦災復興住宅、マンジール地震復興などの経験がある。
■個人住宅の再建の期間(住宅財団)
・ あと2ヶ月後から、住宅再建が始まる。
・ 農村部では、既に住宅再建が始まっている。(地震後約1ヶ月、2004年1月下旬)
・ 1戸の住宅の建設に、6ヶ月以上かかる(スチールフレーム部分は約1ヶ月)。
・ 1000棟ずつ、分けて建設
・ 20ヶ月後にすべて完成予定
・ 2002年のガズビン地震では、住宅財団がかかわり、1万棟の建物を1年間で再建している。
■まとめ
・ 都市復興、住宅再建については、これまでの国内の経験を生かした計画が策定される。
・ 都市の繁栄(あるいは国民の繁栄)のために政府が主導し、個人の参加を求めて復興をすすめようとしている。
・ 再建後の安全性確保のための工夫がなされている。
・ 復興計画・住宅再建についての、問題点の有無は、今後の調査が必要である。
(今回は、主に政府側の人々にヒアリング)
連絡先:神戸大学室崎・北後研究室
TEL 078-803-6009 または 078-803-6440
MURオープンゼミナールは、広く社会に研究室の活動を公開することを企図して、毎月1回、原則として第1土曜日に開催しているものです。研究室のメンバーが出席するとともに、卒業生、自治体の都市・建築・消防関係の職員、コンサルタントのスタッフ、都市や建築の安全に関心のある市民等が参加されています。興味と時間のある方は遠慮なくご参加下さい。
Last Updated 10/05/2019 13:48:18