第67回
「なぜ、住民は避難しないのか?
-2003年十勝沖地震の検証と提案-」
まちづくり計画研究所 渡辺実
□非常用持ち出し缶(防災缶)について
阪神大震災から学んだことについて
実際、大地震のときは何も持ち出せない。
袋から缶へ
① 上から200kgの荷重がかかってもつぶれず、開けることができる
② 多目的な用途がある→避難生活時、水を運ぶ(メッキで毒が出ない) →椅子になる。避難所の床の冷たさから解放される →テーブルになる。配給された食事をとるのに便利缶の普及~阪神タイガース缶~
実際に、有珠山噴火時に避難所の世帯ごとに配布した。金庫がわりにも使われた。
□マッキンゼー レポートについて
9.11NYテロで、NY消防や警察は、どのような活動をしたのかを検証し、提言をしている。
⇒日本に紹介ホームページ参考 http://www.machiken.co.jp/la
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□2003年十勝沖地震
津波警報が出され、避難勧告されても住民は逃げない・・・なぜ?
■2003年十勝沖地震の不思議
・M8(巨大地震)が発生したにもかかわらず被害が少ない
・当然、巨大津波が襲ってきても不思議はなかったが、最大波高4mにとどまった
起こる確率の非常に高い南海 東南海 東海地震が懸念される中、私たちは津波というものを忘れている。(北海道南西沖地震以降、日本で大きな津波が起こっていない。5月26日の宮城県沖地震、そしてこの十勝沖地震も、ラッキーであった・・・)
⇒津波からの避難が最大のテーマ
■北海道の建物は地震に強い~建物被害の少なさ~
① 積雪対策のため屋根が軽い・・・瓦屋根がほとんどなく、軽い素材でつくられている。
② 防寒のため窓が小さく壁率が大きい
③ 凍土対策のため基礎がしっかりしている
⇒寒冷地対策が耐震対策になっている
⇒家具転倒防止など、家庭内防災が課題
■津波警報と避難勧告 住民避難
・6分後の4時56分、
津波警報(北海道太平洋沿岸東部 中部)
津波注意報
・避難勧告:管内14町(釧路 十勝 日高)
4:57広尾町~7:00静内町 計 3万4千人
・避難した住民:約5千8百人 16%
⇒津波警報が出され、避難勧告されても住民は逃げない。
■釧路市の対応~行政対応~
・9:03 1.2mの津波来襲
・避難勧告出さずに自主避難(183人)
・1984年北海道東方沖地震の教訓が生かされていない
・「津波の心配は少ないと判断し、結果的には被害は少なかった。」
・「勧告でも呼びかけでも効果は変わらない。」
・避難勧告を出しても、住民は避難しないと思っている
■沿岸住民がとった行動
・大きな揺れの後、TVで情報収集・・・住民も行政もNHKを見ている。
・沿岸に津波の様子を見に行く
・漁師は、漁船を港から海に出す・・・「漁船は命より大事」と言われることも。
・秋さけ釣り
・サーフィン
・小学生が写生
<TVは・・・>
・在北海道TV局の立ち上がりは、早かった
・NHKは、天カメで津波生中継
・民放カメラは、岸壁で水位上昇を撮影
■提案:津波避難させるための情報
(1)避難しない背景
・大きな地震はあったが、津波は来ない
・生命を脅かす危機は来ない
・気象庁「津波警報」を信じない
・「稲むらの火」でも同様な描き方か
→なぜ庄屋は「津波がくるぞ」と言わなかったのか。言っても 住民は避難しない
今回の行政の考え方と通じるところがある。
⇒「津波警報」にリアリティを
⇒過去の津波災害の恐ろしさを伝承―津波災害文化の確立―
(2)EWSの再評価と整備
・EWS(緊急警報放送システム)…昭和60年施行~現在も実施されている、日本にしかないシステム。東海地震対策。主に①②への活用。
①警戒宣言の発表 ②津波警報の発表 ③知事の要請
⇒有効な緊急情報伝達手段(真夜中など)
⇒今後の巨大地震津波対策に有効(高知、和歌山、三重、静岡など)
⇒デジタル化事業の中で標準装備
(3)津波警報と避難勧告
⇒結果オーライではすまない
⇒津波警報、即「避難勧告」
⇒避難対象:津波ハザードマップ
(道内沿岸45自治体の6割26自治体が作成していない)←お金がかかる
(4)津波避難誘導のための災害報道
NHKは地震発生直後から災害特番
津波予報区を常時標示(点滅)
「海岸にいる人は高台に避難してください」
第1波到達予想時間、到達情報
しかし、客観的な報道でしかない。
「2mの津波が襲ってくる緊張感なし」
東京も沿岸住民も同じ放送を見ている違和感??
⇒ローカル局は、津波来襲の臨場感ある報道
⇒2mの津波来襲予想区域を伝達
⇒誰のための災害報道か?
■おわりに
①地震発生→②地震・津波情報→③避難の判断→④避難行動、といった段階をおった避難行動から、①→④あるいは①→②→④というように、ショートカットする方法をつくっていかなければならない
住民 行政の防災危機意識の向上
異常時情報伝達手段(EWS サイレン 半鐘)
浮く車の開発(沿岸地仕様)
津波災害文化の伝承(津波サミットの再開)
津波災害を繰り返してきた、岩手田老
→ハード面:海岸に高さ10mの壁
→ソフト面:「津波てんでんこ」・・・てんでばらばらに逃げなさい。 しかしこれは、高齢者などのことを考えると、非現実的
車避難は必然ではないか。(⇔渋滞になったり車ごと持っていかれたりする問題)
津波避難路・・・上(避難所)へ行くほど狭いのはいけない。どんどんは 入れるように、避難所に入るところを広くすべき。
(非常時)車が海に流されて港をうめてしまい、港から近づけない。
(日常時)自殺を防ぐ。
これらの内容は「近代消防 2003年12月号」に掲載される。
<質疑応答>
Q 自治体の6割がつくっていないハザードマップについてだが、つくっている4割はどのように活用しているのか。
A 釧路市のハザードマップ・・・表現不足。おくれている。
行政の積極性が見られない。
死者が出ていないこともあり、取り組まなくても誰からも非難されないもう少しあらくてもいいので、安く速くつくってほしい。
Q 「てんでばらばら」という話があったが、動けない人の避難についてはどうか。車での避難や避難ビル(3階建て以上のRC)などについて。
A 津波避難ビルはそう簡単にできない(道路に比べて)←利権の問題
外階段のあるビルを選ぶが、揺れによってそこが崩れるなどして、そのビルでもし事故が起こったときの責任が問題。
日常のセキュリティの問題。
用地があるところならまだいいが、民間ビルの協力を得るのは難しい。
避難ビルに住まわせる・・・ゾーニングの問題。
(記録 大友諒香)
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Last Updated 10/05/2019 13:48:18