第160回
日時:5月19日(土)14:00~17:00
場所:神戸市役所4号館(危機管理センター)1階会議室
神戸市中央区江戸町97-1 Tel. 078-333-0119(消防)
参加者数:36人
内容:
①高層住宅の地震後防火機能維持の課題と居住者組織の活動
-阪神・淡路大震災と東日本大震災をふまえて―
村田明子 清水建設 技術研究所
②高層住宅の地震後防火機能維持の課題
住民による点検・補修による防火機能の維持手法
高橋済 アイエヌジー代表取締役
①高層住宅の地震後防火機能維持の課題と居住者組織の活動
-阪神・淡路大震災と東日本大震災をふまえて―
村田明子 清水建設 技術研究所
高層マンションでは、通常の火災に対しては延焼拡大を防ぐように計画されているが、大地震発生後においては、防火機能が維持できない危険性が高い。被害を防ぐには、施設・設備の状態を点検し、居住の可否を適切に判断する必要がある。大地震直後、専門家による調査の実施は難しく、管理組合等居住者が対処せざるを得ない。
阪神・淡路大震災における高層建物の防火対策調査において、水槽破損、自家発電設備の停止等が問題になり、東日本大震災のマンション調査結果でも、受水槽等の破損が多く見られた。仙台市ではマンション火災が発生しており、そうした機能損傷により、更なる被害拡大の危険性があったこととなる。そこで、地震後の分譲マンションの危険性をチェックする主体は管理組合であることを踏まえ、東日本大震災発生後の居住者組織の活動(安否確認、施設・設備対応、生活復旧への対応等)について報告があった。
今回被災したマンションの事例では、地震後の住民の避難・安否確認に関しては、主に自治会役員、管理組合理事、防火管理者、または自主防災組織のリーダー等が活動の主体となって行われた。日頃からの居住者同士の関係が震災後の生活維持に役立ったと考えられる。大規模な地震が発生した場合、高層マンションでは、まず、専有部(各住戸ドアや壁)や避難経路における防火性能を点検し、その次に共用部の点検が行われることが重要である。点検としては、予備電源、自動火災報知設備、消火設備や防火戸・避難施設等の損傷状況を確認することが必要である。
地震発生後における高層マンションの防火活動の主体をどのようにするかは、重要な課題である。国内の高層マンションを見ると、自主防災組織等のリーダーが指定されているケースが少なく、また、管理組合理事の頻繁な入れ替わり、防火管理者の診断能力、そして不在時の対応等が十分であるかどうか懸念される。そこで、大地震に備え、自主防災組織の位置づけを標準管理規約の中で明確化・義務化していくことが今後の課題として挙げられた。質疑応答では、今回の震災で被災したマンションにて組織的活動がうまくできた場合にはどのような要因があるかとの質問があり、リーダー・副リーダー等を務めた人々の事前からの防災訓練の実績が活かされていたことや、フロアごとの緊急時の役割分担方法についての方針等が決められていた場合によい結果につながったとの見解が示された。
②高層住宅の地震後防火機能維持の課題
住民による点検・補修による防火機能の維持手法
高橋済 アイエヌジー代表取締役
高層マンションは、通常の火災に対して、構造安定性能(火災によって建物が倒れない)、延焼防止性能(火災を拡大させない)、避難安全性能(火災時に建物から安全に避難できる)、及び消防活動支援性能(消防隊の活動を支援する)といった防火性能を有するように設計・計画されている。しかし、大地震の発生によって、建物構造や設備、ライフラインや周辺道路の一部に被害が生じると、これらの防火性能が機能できなくなっている可能性がある。また、高層マンションは、そこに住む人にとっては生活の基盤であり、一方で周辺の避難所にとっては、大きな人数的負荷となるという特徴をもち、出来る限り自分の建物の中で避難生活を送らなければならないと考えられている。つまり、高層マンションの住民は、建物の防火性能の一部が損なわれている可能性があるなかで、生活を続けていかなければならないという問題をかかえている。
阪神・淡路大震災をきっかけとしてこの問題が認識され、地震後でも一定の防火性能を維持するための工法、並びに地震後に防火性能が維持されていることを点検する手法等について、国土交通省等で調査研究が進められてきた。そして今回の東日本大震災を受けて、それまで検討してきた手法の妥当性について考えてみると、点検主体が誰なのか? 混乱している状況の中で可能な点検とは何なのか? といった根本的な問題に対する議論がおろそかになっていることがわかった。そこで、今回被災したマンションで地震直後に行動する主体の形成(居住者組織)の状況を、国土交通省国土技術政策総合研究所、神戸大学都市安全研究センター、清水建設技術研究所、東京理科大学、アイエヌジーの合同ヒアリングなどを通して調査し、また、ライフラインの復旧状況やそれに伴う住民の生活機能の向上などを勘案しながら、地震後の時間経過に沿って点検項目を整理した。この、地震後の時間経過に沿った防火機能の点検・復旧過程の考察に基づき、ライフラインの復旧状況やそれに伴う住民の生活機能の向上を勘案した点検マニュアルの作成・活用手法が示された。
高層住宅における地震後の設備の点検と復旧過程は主に3つのフェーズから成り立つ。フェーズ1は地震後一昼夜における「混乱期」である。このフェーズ1では、まだ帰宅できていない住民もいるので防火設備を点検することは困難であり、また、専門の業者に依頼する状況でもないため、「出火可能性の低減」(火気使用禁止)及び「避難動線の確保」等の程度を高めることによって、火災安全性を担保する必要がある。その後、フェーズ2の期間は2日~4週間が目安とされる。前半においては、住民の過半の帰宅(点検活動能力の増加)や一部のライフラインの復旧(熱源の使用機会の増大)が見られる。このフェーズ2では、公設消防の対応がまだ期待出来ないため、「延焼防止」に関する対応が必要とされる。後半では、主なライフラインの復旧や公設消防の対応が徐々に可能となり、一定の火災安全性能は確保される。ただし、消防隊の活動に必要な諸設備の点検・補修を行う必要があり、完了するまで「消防活動支援」に関して追加的な対応が必要となる。フェーズ3(~6ヶ月・1年)では、建物自体の補修が進み、通常の火災に対して一定の防火性能が確保される。ここでは、建物・設備の完全復旧まで、最低限の防火性能を一時的な補修などによって維持している状況である。
次いで、各フェーズにおける主な点検項目と活動の主体について見る。フェーズ2の前半までは、住民が主体となって行わざるをえないので、点検項目や方法はなるべく簡易なものとし、あらかじめマニュアル化しておくことが必要である。主な点検項目として、避難経路上の不具合、建物の傾き、柱・はり・床の亀裂、住戸間の壁や住戸と共用廊下との間の壁の大きな損傷の有無、外壁・タイル・外部開口部(ガラスなど)の崩落、消火器の有無及び使用可能性、そして防災盤の機能チェック(自動火災報知設備、警報・放送設備及び非常用照明)が挙げられた。一方、この時点で延焼防止性能に問題があるとされても、もし共用廊下が開放廊下である場合、独立な避難経路を2系統以上有する場合、防火区画の簡易な補修によって一定の性能が確保できる場合、またはスプリンクラー設備の作動に十分な電気容量・水量が確保できる場合等は、火気使用制限の緩和が図れる可能性もある。次いで、フェーズ2の後半においては、非常用エレベータ、屋内消火栓、連結送水管、消火用水や非常コンセント設備等、消防隊が必要とする設備の点検が求められ、専門家の対応が必要となる。そして、フェーズ3では、構造躯体・防火区画を構成する部材・防災設備等の完全復旧が行われる。
質疑応答では、住民組織による防火機能の点検・補修手法の制度化の見通しについて問われ、義務化することは難しいが、各自治体の指導で、地震時の各高層住宅の防災計画の策定に盛り込むことが考えられるとの見解が示された。地震直後はハードの懸念をソフト対策で補って火災のリスクを抑えもとの安全水準を確保する必要性や防災設備が果たす役割への関心を、居住者組織へ喚起することが今後の課題として示された。