神戸大学都市安全研究センター研究報告会

神戸大学都市安全研究センター研究報告会

「安全・安心な社会を目指して―阪神・淡路大震災、 東日本大震災の教訓を、東南海・南海地震対応に絶対に活かす!」

日時:2012年1月21日(土)午前9時30分~12時

会場:神戸国際会議場403会議室(ポートライナー市民広場駅下車すぐ)

主催:神戸大学都市安全研究センター

都市安全研究センターの組織と発展

田中 泰雄(都市安全研究センター・センター長)

東北地方太平洋沖地震の地震・津波の発生メカニズム

吉岡 祥一(都市安全研究センター・教授)

減災エリアマネジメントによる安全安心コミュニティ構築

地域コミュニティにおける安全への取り組み

北後 明彦(都市安全研究センター・教授)

地震に備えた建築構造の補強及び補修

藤永 隆(都市安全研究センター・准教授)

閉会挨拶

大石 哲(都市安全研究センター・副センター長)

<報告の概要>

1. 都市安全研究センターの組織と発展

田中 泰雄(都市安全研究センター・センター長)

神戸大学都市安全研究センターの組織の特徴と発展方向について報告した.当センターは16年前(平成8年)に創設され,第Ⅰ期(10年計画)に次いで,平成18年に神戸大学の国立大学法人化に伴う改組によって始まった第Ⅱ期(6年計画)が継続している.阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ,複合領域の総合科学による都市防災の研究活動の発展を目指し,平成24年度に第Ⅲ期(4年計画)がスタートする.

安全かつ快適な都市の理念を構築し,それを実現するための手法,システムについて総合的に教育及び研究を行い,活力ある都市の創出に寄与する事を目的として,当センターの研究活動は,3つの研究分野(①災害発生前の予測・備えに関する「リスク・アセスメント分野」,②災害発生後の応急対応・復興支援に関する「リスク・マネジメント分野」,③危険度認知・共有に関する「リスク・コミュニケーション」)で行われている.

東日本大震災に伴い,当センターでは,津波・原発事故も含む超広域複合災害に関する研究活動が行われている.複合災害に備えた防災・減災(多種・異分野による連鎖災害研究のための枠組み,連鎖災害リスク想定手法)や超広域災害における復興の格差(ネットワーク型の防災・減災拠点や住民との対話・相互理解のあり方等)が重要課題であり,第3回国連・国際防災会議(2015年)に向けて,東北大学等との包括的な協定に基づく研究活動を発展させていく所存である.

2. 東北地方太平洋沖地震の地震・津波の発生メカニズム

吉岡 祥一(都市安全研究センター・教授)

兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)発生時,卓越周期約1秒の地震動によって,短周期地震動に対して脆弱な木造家屋等の低層建築物が甚大な被害を受けた(全壊,1階部分倒壊他).

一方,東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,約0.2~0.3秒の卓越周期が観測されており,振動による建物の被害はそれほど大きくなかった.しかし,沿岸部では地震後に起きた巨大津波によって甚大な被害が発生した.国土地理院の分析にによると,本震に伴う最大水平地殻変動は牡鹿半島で観測されており,半島先端部が約5.3メートル東南東に移動している.また,GPS測位及び遠地地震波形の分析から,震源域におけるプレート境界の浅い部分が約40~50メートルすべったことが把握されている. 次いで,宮古,大船渡,陸前高田及び気仙沼で行われた津波の波高や被害状況に関する現地調査の報告があった.陸前高田では,高さ約15メートルの大津波が来襲し,標高約5mである市街地の大部分(湾沿いから約1kmの範囲内)が壊滅的な被害を受けた.該当する地域では,津波用の避難施設が不十分であったこと等が課題である.

最後に,西日本において近い将来に発生する可能性がある地震のリスクが述べられた.東南海・南海地震,スラブ内地震や内陸直下型地震の他,未知の活断層で起こる地震の可能性が懸念されている.東海・東南海・南海地震の震源域が同時に破壊されるリスクがあり,従来の想定震源域を超える巨大連動地震・巨大津波に備える上で防災計画の見直しを図ることが求められている.

質疑応答では,今後起こる可能性がある地震の震動周期の予測方法について問われた.現状では,地震動周期を予測することは困難であり,例えば長周期地震動(約3秒)によって大都市圏で大きな被害が発生するとされている南海地震でも,阪神・淡路大震災発生時に起きた短周期地震動のリスクは無いとは言えない.津波対策を進めると同時に,地震に伴う建築物の被害に備えた耐震対策を図る必要性が指摘された.

3. 減災エリア・マネジメントによる安全安心コミュニティ構築

-地域コミュニティにおける安全への取り組み- 北後 明彦(都市安全研究センター・教授)

地域住民の参加による地域社会の再生・活性化をはかっていくことがコミュニティマネジメント,住民・事業者主体による地域の管理・運営システムのことをエリアマネジメントといってる.「減災エリアマネジメントによる安全安心コミュニティ構築」プロジェクトでは,このような手法を,コミュニティ・企業が存在するエリアの脆弱性の諸側面について適用していき,減災につながる安全・安心のコミュニティの構築を目指している.

これまで,人口が集中する都心エリア,大規模マンションのエリア,木造密集地域のエリア等において,脆弱性を認識し,地域コミュニティとして安全化をはかる取り組みに貢献する災害時対応マニュアルやまちづくりルールのあり方等にういて検討を進めてきた.今年度は,東日本大震災があったので,将来の南海・東南海地震のことも念頭において,津波・津波火災が発生しやすいエリアでのコミュニティによる安全への取り組みについて,東北で起こったことを振り返りつつ報告した.

地震後の津波に対して,いかに警戒して早く避難するかが課題であったが,少なくない人々は,家族を捜したり,自宅に残した家族を助ける等,家族の無事を確かめたいと思っていた.その中で命を落とした人も少なくないのが,一方ではまわりの人によって助けられた人々も多数存在する.その際,重要なのは,避難するための準備がよい,条件がよいという場合があったと言うことである.

気仙沼の港湾地区では,津波避難ビルが数カ所,地域の人々と建物所有者との協議で指定されていた.ホテル一景閣もその1つで,近所の人々はよく知っていて,ごく近所に住んでいる人々や水産加工場従業員,通りかかった通行人などが地震後,このホテルに避難している.近所から避難してきた約60名のうち,ほとんど歩けない状況の高齢者20人は,家族らが担いで来ている.近くにこのような避難場所がなければ,家族や近所の人が助けようと思っても,とても無理だったと考えられる.

このように避難にかかる時間,距離など,大きな負担無く身近な場所に避難できるようにすることが,まわりの人を助けようとして助からないということを防ぐことになる.

この身近な避難場所については,利点も多いが,様々な災害の現象について安全であるかどうかについての確認,対策も同時に必要である.このホテル一景閣は,震災当日,気仙沼の石油タンクから流出した危険物による海面上の火災がこの周辺に流れ着き,ホテルの周りで何カ所も大きな火災となった.身動きの出来ない高齢者が多数いたので,ここから2次避難することは不可能で,迫ってくる火災を不十分な消火体制で迎え撃つしかすべがなかった.幸い火災はホテルまで到達するまでに鎮火した.

備えがない時は,「津波てんでんこ」といわれるような,切迫した状況での対応とならざるを得ないことがあるが,これは人としてあたりまえの人を助けるということに反する.様々な起こりえる災害現象からの安全を確保するための準備を,行っておく必要がある.

その際,地域での安全な環境を整えていくという意味で,コミュニティで対応していくことが重要となってくる.いろいろな災害で危険が察知されると,警報が出されるが,そのたびに大変な思いをして避難する,特に,高齢者等の方が実際に長距離を時間をかけて避難することは非現実的なことになる.

火災が発生した時に建物から避難するための施設を計画する際に,避難計算を行うことがある.これと同じ事を地域で行う,5分で避難が完了するように避難先や避難ルートを計画するといったことをコミュニティとして議論し,不足する場合は地域の身近な公共として整備することを提起することが考えられる.

地域のリスクとどう向き合うかという点では,東日本大震災で津波により被災した地域での復興のあり方が問われている.それぞれの地域での災害特性を考慮し,普段からのつきあいが非常時に役立つような地域づくりを行っていくことが求められる.

その際,地域によってコミュニティのあり方が異なることにも注意が必要である.自治会・町内会による活動が維持されている地域では,その活動の一環として取り組む形態の自主防災組織が役割を担っている.しかし,都会などではそのような組織が形骸化して実質的な活動ができない場合も多いので,まちの中で機能している様々な組織の連携のなかで地域の安全について考えていくことがのぞましい.また,そのようにしているところであっても年月の経過とともに高齢化がすすみ活動に支障が生じてくることもある.

こうしたことから地域で安全なくらしを支え合うことについての意識を持つ人を増やすことが根本に必要であり,そのような人が地域に増えることによって,地域での活動が展開されるようになると考えられる.その上で,地域の危険性を共通の認識とすること,その危険性に対してどのようなことをしておくべきであるかを考えること,そして災害時に備えて訓練をし,対応が困難と考えられることがあればその解決について検討しておくこと等,地域の状況に応じて考えながら地域でコミュニティ防災を進めていくことが望まれる.

今後,具体的な地域コミュニティと連携しながらこのような過程の実践に貢献するとともに,地域での対応を検討する際のツール,例えば避難手段の整備による効果提示等について引き続き研究を進める予定である.

4. 減災エリア・マネジメントによる安全安心コミュニティ構築

-地震に備えた建築構造の補強及び補修-

藤永 隆(都市安全研究センター・准教授)

2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では,長周期振動の影響(東京・大阪等における高層ビルのエレベーター停止や最上階部分の揺れ),地盤液状化に伴う問題(仙台・千葉等),非構造壁・外壁タイルの落下問題や既存の耐震補強が十分に機能しなかった事例等が課題となった.被災地では,地震によって構造的な被害を受けた建物の補修が求められており,また,被災地以外では,耐震強度が不十分である建物の強化を図る必要性があることを指摘した.

地震に対して脆弱な構造物の補修・補強に関する課題は,1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)でも問題となった.この時は,柱・梁等の主要構造が無損傷であるにも関わらず,非構造部材の損傷が不安視され,建物全体が無駄に解体・新築されてしまう意向が見られた. その背景には,建物の補修・補強に関する資料が少なかった事や,地震を受けた部材に関する建物の情報が不十分であったことが考えられる.震災後,国は建築物の耐震改修の促進に関する法律を定め,既存不適格建築物(建築時には適法に建てられていたが,現行の基準には適していない建物)等,耐震性能が確認されていない建物が耐震診断の対象となり,結果に応じて耐震改修又は建て替えが検討されることとなっている.現行の耐震改修方法としては,耐震壁や耐震ブレース工法による強度増加,または鋼板巻・炭素繊維シート巻補強工法によって柱の粘り強さを増やす方法が一般的である.研究では,外付け鉄骨によるRCの耐震補強や,間接接合部の応力伝達解析,および高流動コンクリート打設実験を行った.

次に,被災建築物の構造補修に関する研究としては,現在解体される傾向がある建築物も,補修により有効利用可能とする事を目的として,補修実験のデータの蓄積や補修後の性能確認が行われている.損傷したRC部材の柱の補修実験(ひび割れ補修・モルタル補修)では,補修後に構造の最大耐力が上昇する一方,剛性が低下する傾向があり,数値解析によって有効な耐力上昇・剛性低下レベルの検討が行われている.補修後の部材を耐震補強する実験もしており,せん断破壊された柱をエポキシ樹脂補修後に鉄骨補強した試験体では耐力を補修前の3倍以上に上昇させており,また,炭素繊維巻補強工法によって,粘り強さを確保する方法でも良い成果が得られている.

質疑応答では,エポキシ樹脂の耐候性及び耐火性等について問われた.耐候性に関しては,紫外線を樹脂に当て確認する事が可能である.一方,耐火性については,コンクリートの熱容量が大きいので,内部の樹脂への影響は少ないと考えられる.しかし,炭素繊維巻の場合,表面部分の樹脂への火災・熱の影響が大きくなり,その際は耐火被覆等が必要となる.

(以上)