【第160回】2012/05/19 ②高層住宅の地震後防火機能維持の課題―住民による点検・補修による防火機能の維持手法 (高橋済/アイエヌジー代表取締役)

高層マンションは、通常の火災に対して、構造安定性能(火災によって建物が倒れない)、延焼防止性能(火災を拡大させない)、避難安全性能(火災時に建物から安全に避難できる)、及び消防活動支援性能(消防隊の活動を支援する)といった防火性能を有するように設計・計画されている。しかし、大地震の発生によって、建物構造や設備、ライフラインや周辺道路の一部に被害が生じると、これらの防火性能が機能できなくなっている可能性がある。また、高層マンションは、そこに住む人にとっては生活の基盤であり、一方で周辺の避難所にとっては、大きな人数的負荷となるという特徴をもち、出来る限り自分の建物の中で避難生活を送らなければならないと考えられている。つまり、高層マンションの住民は、建物の防火性能の一部が損なわれている可能性があるなかで、生活を続けていかなければならないという問題をかかえている。

阪神・淡路大震災をきっかけとしてこの問題が認識され、地震後でも一定の防火性能を維持するための工法、並びに地震後に防火性能が維持されていることを点検する手法等について、国土交通省等で調査研究が進められてきた。そして今回の東日本大震災を受けて、それまで検討してきた手法の妥当性について考えてみると、点検主体が誰なのか? 混乱している状況の中で可能な点検とは何なのか? といった根本的な問題に対する議論がおろそかになっていることがわかった。そこで、今回被災したマンションで地震直後に行動する主体の形成(居住者組織)の状況を、国土交通省国土技術政策総合研究所、神戸大学都市安全研究センター、清水建設技術研究所、東京理科大学、アイエヌジーの合同ヒアリングなどを通して調査し、また、ライフラインの復旧状況やそれに伴う住民の生活機能の向上などを勘案しながら、地震後の時間経過に沿って点検項目を整理した。この、地震後の時間経過に沿った防火機能の点検・復旧過程の考察に基づき、ライフラインの復旧状況やそれに伴う住民の生活機能の向上を勘案した点検マニュアルの作成・活用手法が示された。

高層住宅における地震後の設備の点検と復旧過程は主に3つのフェーズから成り立つ。フェーズ1は地震後一昼夜における「混乱期」である。このフェーズ1では、まだ帰宅できていない住民もいるので防火設備を点検することは困難であり、また、専門の業者に依頼する状況でもないため、「出火可能性の低減」(火気使用禁止)及び「避難動線の確保」等の程度を高めることによって、火災安全性を担保する必要がある。その後、フェーズ2の期間は2日~4週間が目安とされる。前半においては、住民の過半の帰宅(点検活動能力の増加)や一部のライフラインの復旧(熱源の使用機会の増大)が見られる。このフェーズ2では、公設消防の対応がまだ期待出来ないため、「延焼防止」に関する対応が必要とされる。後半では、主なライフラインの復旧や公設消防の対応が徐々に可能となり、一定の火災安全性能は確保される。ただし、消防隊の活動に必要な諸設備の点検・補修を行う必要があり、完了するまで「消防活動支援」に関して追加的な対応が必要となる。フェーズ3(~6ヶ月・1年)では、建物自体の補修が進み、通常の火災に対して一定の防火性能が確保される。ここでは、建物・設備の完全復旧まで、最低限の防火性能を一時的な補修などによって維持している状況である。

次いで、各フェーズにおける主な点検項目と活動の主体について見る。フェーズ2の前半までは、住民が主体となって行わざるをえないので、点検項目や方法はなるべく簡易なものとし、あらかじめマニュアル化しておくことが必要である。主な点検項目として、避難経路上の不具合、建物の傾き、柱・はり・床の亀裂、住戸間の壁や住戸と共用廊下との間の壁の大きな損傷の有無、外壁・タイル・外部開口部(ガラスなど)の崩落、消火器の有無及び使用可能性、そして防災盤の機能チェック(自動火災報知設備、警報・放送設備及び非常用照明)が挙げられた。一方、この時点で延焼防止性能に問題があるとされても、もし共用廊下が開放廊下である場合、独立な避難経路を2系統以上有する場合、防火区画の簡易な補修によって一定の性能が確保できる場合、またはスプリンクラー設備の作動に十分な電気容量・水量が確保できる場合等は、火気使用制限の緩和が図れる可能性もある。次いで、フェーズ2の後半においては、非常用エレベータ、屋内消火栓、連結送水管、消火用水や非常コンセント設備等、消防隊が必要とする設備の点検が求められ、専門家の対応が必要となる。そして、フェーズ3では、構造躯体・防火区画を構成する部材・防災設備等の完全復旧が行われる。

質疑応答では、住民組織による防火機能の点検・補修手法の制度化の見通しについて問われ、義務化することは難しいが、各自治体の指導で、地震時の各高層住宅の防災計画の策定に盛り込むことが考えられるとの見解が示された。地震直後はハードの懸念をソフト対策で補って火災のリスクを抑えもとの安全水準を確保する必要性や防災設備が果たす役割への関心を、居住者組織へ喚起することが今後の課題として示された。

<第160回オープンゼミナール>
日時:5月19日(土)14:00~17:00
神戸市中央区江戸町97-1 Tel. 078-333-0119(消防)
参加者数:36人
内容:
①高層住宅の地震後防火機能維持の課題と居住者組織の活動
-阪神・淡路大震災と東日本大震災をふまえて―
村田明子 清水建設 技術研究所
②高層住宅の地震後防火機能維持の課題
住民による点検・補修による防火機能の維持手法
高橋済 アイエヌジー代表取締役

0 件のコメント:

コメントを投稿

次回のご案内

<第232回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>
■日時:2018年4月21日(土)14時~17時
■場所:神戸市役所4号館(危機管理センター)1階会議室
■司会:神戸大学都市安全研究センター センター長・教授 長尾 毅
■共催:神戸市危機管理室、神戸市消防局
■後援:兵庫県
■プログラム

① 地域における津波時の避難誘導のあり方ー東日本大震災での経験から考える
  北後明彦 神戸大学都市安全研究センター教授
 これまでの津波や今後の南海トラフ巨大地震等が発生した場合の津波からの避難においては、①津波発生情報の避難対象者への伝達と避難誘導、②避難対象者の津波への認識と対応行動、③車避難による交通渋滞発生、④避難経路途上の建築物・橋梁などの地震被害による通行障害、⑤夜間に津波が発生した場合の避難誘導、⑥避難行動要支援者の避難行動支援などが課題となる。本講演では、東日本大震災での津波を経験した要配慮者利用施設や対応にあたった消防団等への聞き取り調査の結果等を紹介しつつ、地域における避難誘導のあり方について示す予定です。

② 災害後の高齢化地域での回復力ー東日本大震災から7年の気仙沼市鹿折の現況(仮題)
  吉田千春 元気仙沼市鹿折まちづくり協議会地域活性化支援員
 東日本大震災から8年目を歩みだしました。私の生活する宮城県気仙沼市鹿折地区は震災前から過疎高齢化地域でした。東日本大震災では火災、津波、主要産業の水産業を中心とした産業がダメージを受け三重苦の被害と評されました。震災後の地域は更に分断、高齢化の加速、過疎化という三重苦を更に背負うことになりました。ハード面回復は進められても、地域を構成する人、人の心の復興はなかなか進んでいないのが現状です。地域のリジリエンスのエネルギーについてお話できればと思います。



今後の予定のご案内

関連する催しのお知らせ

<日本科学者会議兵庫支部フォーラム>
日 時:2018年5月12日(土)13時30分~
場 所:神戸市勤労会館(三宮)講習室403
内 容:記念講演「神戸、この100年間の災害と復興の歴史」
    室崎益輝 兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科長




その後のオープンゼミナールの予定
 一昨年8月の台風10号による水害で岩手県岩泉町の要配慮者利用施設での被災で深刻な人的被害が発生したことを契機とする昨年の6月の水防法・土砂災害防止法の改正により、全国の浸水想定区域や土砂災害警戒区域内の市町村地域防災計画で示された要配慮者利用施設の管理者等は、豪雨時等の避難が必要な際に備えて、各施設ごとに避難確保計画の作成や避難訓練を実施することが義務となりました。神戸市では、危機管理室が主導して各部局と連携して要配慮者利用施設における安全確保を図るとのことです。そこで、5月~7月のオープンゼミナールでは、避難確保計画作成のポイントと避難に係る時間算出、洪水リスクや土砂災害リスクの把握と避難方法の選択、情報を活用した避難開始のタイミング、及び、情報連絡等の留意事項等について各分野から情報提供を行うとともに、計画のあり方についてオープンゼミナール参加者の皆様と議論をして、これらの施設や周辺地域における防災対応力の向上に資することを目指したいと考えています。施設関係者や周辺にお住いの方々をはじめ、ご関心のある皆様方のご参加をお待ちしています。

<第233回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>
●2018年5月19日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
①法改正による要配慮者利用施設における避難確保計画策定等の義務化に係る対応(仮題)
 星野誠治 神戸市危機管理室 危機対応担当課長
②要配慮者利用施設における避難確保計画作成のポイント
 北後明彦 神戸大学都市安全研究センター教授
③要配慮者利用施設における洪水リスクの把握と避難方法の選択(仮題) 
 小林健一郎 神戸大学都市安全研究センター准教授

<第234回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>
●2018年6月16日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
①要配慮者利用施設における土砂災害リスクの把握と避難方法の選択(仮題)
 沖村孝 神戸大学名誉教授、(財)建設工学研究所常務理事
②雨量レーダー等から得られる情報を活用した避難開始のタイミング判断(仮題)
 大石 哲 神戸大学都市安全研究センター教授

<第235回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>
●2018年7月14日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
① 要配慮者利用施設における避難確保計画作成上の留意事項(仮題) 
 宇田川 真之 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター 特任助教
②風水害に対応した要配慮者利用施設における避難のあり方(仮題)
 牛山 素行 静岡大学 防災総合センター 教授
--------------------------------------------------------------------
※上記以降は下記の日程・場所でオープンゼミナールを開催する予定です。
●2018年8月18日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2018年9月15日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2018年10月20日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)

お知らせメール

名前

メール *

メッセージ *