【第156回】2011/12/17 ②宮城県女川町における復興計画策定について (福留邦洋 | 新潟大学災害・復興科学研究所特任准教授)

女川町の復興計画策定委員会での検討状況、地域での生業やコミュニティとの関係での復興のあり方など報告していただきました。

<発表の概要>
東日本大震災による女川町の被害状況,復興計画策定委員会での検討状況,地域での生業やコミュニティとの関係での復興のあり方などについて報告があった.
最大震度6弱の地震に襲われた女川町には,15mを超える大津波が到達しており,およそ320haが浸水した.中心市街地では3階建てまでの建物が水没し,ほとんどの建物が流された.津波は15m以上の斜面を超え,高台にある市立病院の1階部分まで来襲し,避難に遅れた在館者が犠牲となった.また,3階建ての行政庁舎にいた職員は,屋上まで避難して助かっているが,行政の基礎的なデータが津波で失われており,復興計画では,次の災害に備えて,電子データのバックアップを本庁舎以外でも確保する取り組みが検討されている.また,町全体の人口の8%の住民が死亡・行方不明者となっており(2011年8月3日の時点で526名),女川町の死亡率は宮城県内でもっとも厳しい数値である(阪神・淡路大震災に伴う東灘区や長田区の死亡率約1%未満を大きく上回る).
甚大な被害の背景として,海岸の見えない内陸までの津波の来襲が挙げられた.津波は女川を沿って海岸から2km以上の内陸まで遡上しており,町丁目別での死亡率を見ると,湾に面する各町内での死亡率は,最悪の場合最大20%まで限られているが,内陸部分では死亡率が20%を超える町内が点在する.今後の詳細な分析等が必要であるが津波に対する認識の違いが影響した可能性があろう.建物の被害状況についても,2,937棟の住宅(町の6割以上)が全壊しており,阪神・淡路大震災や中越沖地震の被害状況を超えている.RC造の建物が津波によって根元から横転しているケースが確認されており,女川町では南三陸町や名取市等での被害形態とは異なる被害が比較的多く発生した.
女川町の復興計画策定は5月1日に開始し,9月に計画の確定が行われた.策定委員会の構成については,中越沖地震や阪神・淡路大震災の体制とは異なる部分がある.女川町の復興計画策定委員会の場合,宮城県の次長が委員に参画し,国土交通省の課長補佐等もオブサーバとして(一部,実質委員に近い形で)参加しており,策定過程において県・国の方針との連動が多く見られた.
5月の時点で,集落の統廃合案に関する議論が行われたが,離島・半島における集落では,集落統廃合に伴う地区別での既存の漁業権の変化を懸念し,統廃合・集約化に反対する意向が示された.短期間で漁業権に関する議論を進める事は難しく,結果的には集落の統廃合案は途中で取り下げられた.マスコミ等外部の報道では,集落集約や高台移転が混同する形で取り上げられた.現状では,集落集約に対して地域の関心,反発が非常に強かったのにもかかわらず,報道では高台移転に対して反発が大きいように捉えられた.また復興計画の内容が地域の関心とは異なる形で報道される傾向がみられた.女川町では,住民による産業の再建・維持に関心が高く,今後は集落の存続に向けて,住宅再建や移転先等の課題の他にも,産業に関する議論を深めていく事が求められている.
公聴会では,住民の多くが応急的な避難生活が続いている事を踏まえ,中・長期的な復興計画について議論・検討を行うにあたって難しい部分があった.復興計画に並行して,被災者個々の短期的な生活再建の見通しを示すことも必要である.ちなみに満潮・高潮時には,震災で地盤沈下した地域において浸水・内水氾濫等が生じる状況が今でもあり,本格的復興に入る前の基盤となる復旧を住民が実感できるように進める事が求められている.一方,女川町では浸水から逃れた地域が非常に限られており,仮設住宅を建設するために確保された平地が不十分であったため,町外避難をせざるを得ない状況が多く発生した(石巻市の応急仮設住宅や仙台市等の民間借り上げ住宅等).ここでは,震災による1割近い死亡率や震災前からの高齢化に加え,町外での避難生活の長期化の可能性等,人口減少に関する課題を踏まえた長期的復興計画の必要性が感じられる.しかし,現状では上記の課題がほとんど考慮されないままに,震災前の人口約1万人ベースでの復興計画が進められており,今後の人口のギャップに応じて,定期的に復興計画を見直す必要があると考えられる.
そして集落再建のために,住民自身が新潟県中越地震に伴う集団移転で建設された復興公営住宅等を自主的に視察する事例が紹介された.住民自体が自主的に過去の復興過程の実績から学ぼうとしている取り組みは魅力的であるが,女川町の仮設住宅にて行われた視察報告会には,町役場職員が参加できなかった事等が懸念される.
再建に向けてのその他の課題としては,小さな集落であるにもかかわらず被災者の分散居住・避難生活による情報共有の困難性,従来からある町内会・自治会組織と震災復興組織の関係が明確化していない事例がみられること,災害危険区域・建築制限区域の設定に対する漁業関係者及び水産加工業関係者,その他の職業従事者との考え方の違い,そして世帯内(世帯主及び配偶者,子育て世帯等)における移転先についての意思決定の難しさ等が挙げられた.
復興計画実施に関する人的資源・技術的な手法の面では,ゾーニング等面的整備に関する技術的支援体制が,阪神・淡路大震災自治体職員やUR都市機構等,大都市圏の整備に関する知見を持つ人材から構成されていることから,集落の漁業・水産加工業を計画へ十分に考慮できるか懸念される.町役場の産業系職員や地域産業に詳しい専門家などの関与の必要性が挙げられた.また,復興計画策定過程では庁内担当部局(復興対策室)が一手に担う形となり,他の部局はあまり関与した形跡がうかがえないと考えられる(庁内横断的なワーキング・グループの立ち上げなどにより役場職員が全庁的に促進を把握し,問題共有,対応できる仕組みが不足であった).
さらなる復興計画の具体的な実施に向けた課題として,離島・半島等の小規模集落における高台移転のイメージについて,行政と住民とでは異なる可能性がある事(公聴会では復興計画の文言について議論を行ったものの,図面に関する検討は少なかった事もあり,また,平面上の場所は合意がとれたとしても,造成方法次第では大きな反発を招く可能性がある),女川原子力発電所との関係に関する議論が今後求められること,土地利用の整備や役割分担に関する地域を全体的に捉える視点の希薄化(省庁間の調整はほとんど行われずに町など現地で説明・提案が行われた)等が挙げられた.

<第156回オープンゼミナール>
日時:2011年12月17日(土)14:00~17:00
場所: 神戸大学工学研究科 C1-301
内容:
①東日本大震災における被災者の生活再建や地域復興に関する調査報告
神戸大学都市安全研究センター特任講師 林大造
②宮城県女川町における復興計画策定について
新潟大学災 害・復興科学研究所 特任准教授 福留邦洋
参加者:26人 (北後)

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次回のご案内

<第235回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>

■日時:2018年7月14日(土)14時~17時
■場所:神戸市役所4号館(危機管理センター)1階会議室
■司会:神戸大学都市安全研究センター 教授  北後 明彦
■共催:神戸市危機管理室、神戸市消防局
■後援:兵庫県
■プログラム

① 要配慮者利用施設における避難確保計画作成上の留意事項
 宇田川 真之 東京大学大学院情報学環 総合防災情報研究センター 特任助教
内閣府(防災担当)のモデル事業として全国の要配慮者施設の参考となるように施設管理者や関係行政機関等が連携して編集された「要配慮者利用施設における避難確保計画作成事例集(水害・土砂災害)」の中から、河川氾濫の事例を中心に紹介し、作成過程において検討課題となった事項などを報告します。

② 地域を知り,防災を考える ―最近の豪雨災害事例から学ぶこと―
 牛山 素行 静岡大学 防災総合センター 教授
 我が国の風水害は,被害規模は経年的に激減しているものの,毎年各地で繰り返し発生しています。近年の風水害による人的被害の特徴に関する研究結果を紹介した上で,防災を考える上では地域の災害特性を知ること,様々な災害情報を活用することなどの重要性について論じます。

今後の予定のご案内



その後のオープンゼミナールの予定
 一昨年8月の台風10号による水害で岩手県岩泉町の要配慮者利用施設での被災で深刻な人的被害が発生したことを契機とする昨年の6月の水防法・土砂災害防止法の改正により、全国の浸水想定区域や土砂災害警戒区域内の市町村地域防災計画で示された要配慮者利用施設の管理者等は、豪雨時等の避難が必要な際に備えて、各施設ごとに避難確保計画の作成や避難訓練を実施することが義務となりました。神戸市では、危機管理室が主導して各部局と連携して要配慮者利用施設における安全確保を図るとのことです。そこで、5月~7月のオープンゼミナールでは、避難確保計画作成のポイントと避難に係る時間算出、洪水リスクや土砂災害リスクの把握と避難方法の選択、情報を活用した避難開始のタイミング、及び、情報連絡等の留意事項等について各分野から情報提供を行うとともに、計画のあり方についてオープンゼミナール参加者の皆様と議論をして、これらの施設や周辺地域における防災対応力の向上に資することを目指したいと考えています。施設関係者や周辺にお住いの方々をはじめ、ご関心のある皆様方のご参加をお待ちしています。

<第236回神戸大学RCUSSオープンゼミナール>
●2018年8月18日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
①組織の安全配慮義務と事業継続計画(BCP)
~大川小学校津波訴訟判決の教訓と防災を自分ごとにする人づくり~ 
 岡本 正 銀座パートナーズ法律事務所 弁護士・博士(法学)・慶應義塾大学講師

東日本大震災で多数の犠牲者を出した石巻市立大川小学校に関する津波訴訟の控訴審判決が今年4月にありました。大川小のほか十数件におよぶ津波訴訟の裁判経過や判決を分析した研究成果をもとに、企業や行政機関が災害時に果たすべき「安全配慮義務」や会社役員の「善管注意義務」とは何かについて、危機管理と防災・減災の視点から教訓を抽出します。具体的に組織の事業継続計画(BCP)や危機管理マニュアルに教訓をどう反映すべきか、組織で採用すべき人材育成や教育研修のプログラムとは何か、について、講師が創設した『災害復興法学』の観点を踏まえつつ解説します。

② これからの消防法学の展望
 山崎 栄一 関西大学社会安全学部教授

 発表者は、2018年6月より月刊消防(東京法令出版)にて「消防法学入門」を連載している。この連載をきっかけに、消防法の世界における二つの大きな特徴と問いが見えてきた。それは、消防法制をコンスタントに研究している行政法学者が皆無であり、消防実務家によって消防法学が発達を遂げているという点である。そのこともあって、消防法の解釈論が数十年前の行政法のテキストに基づいて展開されている。語弊を恐れずにいえば「消防法学のガラパゴス化」ともいえる現象が起こっている。このような状況をどのように評価すべきなのであろうか。新たな消防法学の可能性はないのであろうか。他方、消防業務の多くの部分は、消防法令を常に意識しながら活動をすることが求められており、実務的な視点に基づいた消防法テキスト・実務テキストが多く普及している。そして、これらのテキストに基づいて、消防に関する法務が実施されているのである。同じく語弊を恐れずにいえば「消防法学における実務と学問の遊離」ともいえる現象が起こっている。消防法学における実務と学問の融合はあり得るのであろうか。このような中で、消防職員に対して、どのような法教育を展開すればいいのであろうか。そもそも論として、学問的な視点から法学や行政法学を教える意味が一体どこにあるのであろうか。今回の発表において、今後の消防法学のあり方について、あくまでも試論(かつ私論)ではあるが、発表者の見解を述べる予定である。



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※上記以降は下記の日程・場所でオープンゼミナールを開催する予定です。
●2018年9月15日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2018年10月20日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2018年11月17日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2018年12月15日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2019年1月12日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2019年2月9日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)
●2019年3月16日(土)14時~17時 神戸市役所4号館(危機管理センター)

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